「香水やラグジュアリーについては、重心がパリやニューヨークのような従来の都市から移りつつある」
これは2025年、あるベトナム発フレグランスブランドの創設者が語った言葉です。
かつて香水の世界は、フランス・パリが絶対的な中心地でした。
グラースで育てたローズとジャスミン、老舗メゾンの調香師、百年以上の歴史
——それが「本物の香水」の定義でした。
でも2025〜2026年、その定義が静かに書き換えられています。
韓国発の「TAMBURINS(タンバリンズ)」が東京・青山と渋谷に旗艦店を構え、
ベトナム発の「d’Annam(ダンナム)」が「白米」の香りでニューヨーク市場を席巻し、
中国発の「To Summer(トゥーサマー)」にロレアルが出資している。
ロレアルやエスティローダーといったビューティ大手がアジア発の香水ブランドへの投資を加速させているという事実が、この潮流の「本物さ」を物語っています。
この記事では、今まさに世界市場で存在感を高めるアジア3カ国の注目フレグランスブランドを、詳しくご紹介します。
なぜ今、アジア発フレグランスが注目されているのか
背景には複数の変化があります。
SNSによる情報の民主化
InstagramやTikTokの登場以降、香水の評判は店頭の棚や雑誌広告ではなく、SNSのレビュー動画で伝わるようになりました。
「パリのメゾン発」というブランド権威よりも、
「自分が実際に嗅いで感動した」という個人の体験が力を持つ時代に、
アジアのブランドはSNS親和性の高い世界観とパッケージで急速に支持を広げました。
「非西洋的な香り素材」への関心
ウード(沈香)、白米、抹茶、金木犀、ヒノキ、苔
——欧米の調香師が使い慣れていない素材が、逆に新鮮なニッチ性として評価されています。
「ベトナムのフレグランス文化はとても洗練されている。
多数のニッチな専門ストアがあり、今どきの多くの若者が高級ブランドを素通りして、ニッチなブランドに向かっている」
という声が示すように、アジアの消費者自身の香りリテラシーが土台になっています。
大手の投資がお墨付きを与えた
ロレアルは韓国ブランドのBorntostandoutや中国ブランドのTo Summerに投資しており、
そうしたトレンドは2026年も続く可能性があると報じられています。
大手が動いたことで、アジア発ブランドへの信頼性と注目度はさらに高まっています。
韓国|TAMBURINS(タンバリンズ)
「香りをまとうアート」。
ソウル発、世界が注目するフレグランスブランド
2017年、ソウル発。
アイウェアブランド「ジェントルモンスター」のクリエイター陣が立ち上げたフレグランスブランドです。
タンバリンズを一言で表すなら、**「香水のアート化」**です。
「直線的に感じられるシャープな第一印象とは対照的な滑らかな曲線の触覚的な経験は、指先で物事を読み取るような共感覚の世界へとあなたを誘います」
——これはブランドが自ら掲げるフィロソフィーです。
香りを嗅覚だけでなく、視覚・触覚・物語という複数の感覚で体験させることをコンセプトの核に置いています。
BLACKPINKのジェニーのブランドアンバサダー起用、
ソウル・聖水の現代アート美術館のような旗艦店空間
——これらは単なるマーケティングではなく、
「香りはアートである」というブランドメッセージそのものです。
2024年3月に東京・青山に日本初上陸、2025年7月には渋谷にも2号店をオープン。
現在は伊勢丹新宿店でも購入可能です。
注目の香り:CHAMO(カモ)
ブランド内で圧倒的な人気を誇るベストセラー。
蜂蜜のように濃厚で甘いカモミールとほろ苦いクラリセージのハーブが絶妙に調和し、
冷たさを感じるしっとりとした苔の感触を、ブロンドウッドと温かみのあるムスクが包み込む
——「疲れた心に特別で小さな癒しを与える」香りです。
ジェニー愛用の「ジェニーの香り」として世界に知られ、
「甘すぎず、尖りすぎず、抜群におしゃれ」と評されます。
注目の香り:BERGA SANDAL(ベルガサンダル)
地中海の日差しを浴びて熟したベルガモットにライムとカルダモンのほろ苦いアクセントが加わり、
サンダルウッドが「夏の日の温かい記憶」をラストに残します。
ユニセックスで男女問わず使いやすく、MALQSのウェルネス文脈でも相性抜群の一本です。
入手しやすさ: ◎ 青山・渋谷旗艦店、伊勢丹新宿店、公式オンラインで購入可
価格帯: 50mL 約15,000〜18,000円前後
ベトナム|d’Annam(ダンナム)
「白米」の香りでニューヨークを虜にした、ベトナムの野心
2023年、ニック・ホアン氏によって立ち上げられたベトナム発ブランド。
「抹茶ソフトクリーム」や「白米」のような香りで米国市場で人気を集めてきた。
という紹介が象徴するように、欧米の香水常識を軽やかに逸脱する
「食の香り」を軸にしたフレグランスが最大の特徴です。
ダンナムが面白いのは、単に珍しい香りを作るだけでなく、
ベトナムの歴史・文化・風景を香りのナラティブとして丁寧に昇華している点です。
市場調査の動向よりも文化的なストーリーを優先するというアプローチは、
まさにル ラボやバイレードが2000年代に行ったニッチフレグランスの方法論と同じです。
「ダンナムが大成功を収められないとしたら、その方が驚きだ。
このブランドは2025年を代表するニッチブランドのようなもので、
どの香水ストアでも売り切れになっている」
というフレグランス業界関係者の声が、このブランドの勢いを物語っています。
「白米」の香りとは何か
炊きたての白米のほんのりとした甘みと澱粉質の温もり
——日本人にとってはまさに「懐かしく安心できる記憶の香り」です。
欧米市場では前例のないこのアプローチが「アジアの記憶の香り」として新鮮に響き、
ニューヨークのニッチ香水専門店で話題を集めました。
また、ベトナム人調香師シー・チュオン氏は2024年に「Art and Olfaction Awards(嗅覚アートアワード)」を受賞。
ベトナムの調香師が世界的な嗅覚アートの舞台で評価されたことは、アジア発フレグランスの質的な成熟を示す象徴的な出来事でした。
入手しやすさ: △ 主に海外ニッチ香水専門店・公式オンラインで購入可。
日本への入荷は限定的
価格帯: 約15,000〜25,000円前後(輸入費用含む)
中国|To Summer(トゥーサマー)
金木犀と中国の夏。
東洋の記憶を纏うラグジュアリーフレグランス
2018年、北京創業。
ロレアルが投資した中国ブランドとして世界的な注目を集めるTo Summerは、中国の夏・庭・花・記憶をモチーフにした、
東洋的ラグジュアリーを体現するニッチフレグランスブランドです。
ブランドの代名詞とも言える香りが、
**金木犀(オスマンサス)**を主役にしたシリーズです。
金木犀は東アジア各地で秋の訪れを告げる花として愛され、その甘くフルーティな香りは
「子ども時代の記憶」
「おばあちゃんの庭」
という情緒と結びついています。
To Summerはこの花の記憶を、現代的な調香技術と中国の美意識で精緻に香水へと昇華しました。
欧米の消費者にとっては「まったく新しい香り素材との出会い」であり、中国・日本・韓国などアジア圏の消費者にとっては
「記憶の中の懐かしい香り」という二重の訴求力を持つ点が、このブランドの最大の強みです。
中国国内では「国潮(グオチャオ)」
——国産ブランドへの誇りと愛着——ムーブメントの象徴的存在としても認識されており、若い世代を中心に爆発的な人気を誇ります。
パッケージも中国伝統の陶磁器・漆器・水墨画を現代的にデザインに落とし込んだ審美性が高く、コレクターが続出しています。
入手しやすさ: △〜○ 日本の一部セレクトショップおよびオンラインで入手可能。需要に対して流通量が少ない
価格帯: 約18,000〜30,000円前後
3ブランドを比べてみる
| TAMBURINS(韓国) | d’Annam(ベトナム) | To Summer(中国) | |
|---|---|---|---|
| 世界観 | アート×感覚的体験 | 文化的ナラティブ×食の香り | 東洋的記憶×国産美学 |
| 特徴的な香り素材 | カモミール・ウッディ・ムスク | 白米・抹茶・アジアの食材 | 金木犀・茶・陶磁器のイメージ |
| 日本での入手しやすさ | ◎ 直営店・百貨店あり | △ オンライン中心 | △〜○ セレクトショップ |
| 推しポイント | パッケージの芸術性とデイリー使いのしやすさ | 食の香りという前例のない独創性 | アジアの記憶を高品質に香水化した格 |
アジア発ブランドが変えた「香水の常識」
この3ブランドに共通するのは、欧米の調香文化の「外側」から香水を再定義しているということです。
パリの老舗メゾンの香水が「普遍的なエレガンス」を目指してきたとすれば、
アジア発の香水は**「特定の記憶・文化・感情の精緻な翻訳」**を目指しています。
白米の香り、金木犀の秋の夕暮れ、カモミールと苔の共感覚
——これらは香水の歴史には存在しなかった言語で、嗅覚に訴えかけます。
「香水の重心が移動しつつある」という言葉は、単なる流行の話ではありません。
誰が世界の香りを定義するのか、という問いへの答えが変わりつつある
——それがいま香水業界で起きていることです。
まとめ
- 2026年の香水市場では、アジア発ブランドへの注目が急上昇しており、ロレアルなど大手の投資も進んでいる
- TAMBURINS(韓国) は「香りをアートにする」ブランド。
CHAMO・BERGA SANDALが人気で、日本では青山・渋谷・伊勢丹で購入可能 - d’Annam(ベトナム) は「白米」「抹茶」など食の香りで欧米市場を席巻。ベトナム文化の誇りを調香に落とし込む新世代ブランド
- To Summer(中国) は金木犀・東洋的美意識を軸にした中国発ニッチフレグランス。
ロレアルが投資した実力派 - 3ブランドに共通するのは「欧米の香水言語ではなく、アジア独自の記憶と文化を香りに翻訳している」こと
- パリ発ではなくアジア発の香りが世界を動かす時代が、静かに、確実に来ている



